好きなものを語る⑨イリュージョン

好きなもの

RADWIMPSの楽曲、me me sheの中にこんな歌詞がある。

「僕が例えば他の人と結ばれたとして 二人の間に命が宿ったとして その中にもきっと 君の遺伝子もそっと まぎれこんでいるだろう」

この歌詞に出会った時、わーと思った。なるほど、と思った。自分に影響を与えたものが遺伝子レベルに落とし込まれているという感覚。食べ物が自分の体を構成しているように、ある存在が自分のDNAにまで作用していると捉えると、どんな存在に出会いレコードしていくのかは、自分がどういう人間になっていくのかを左右する。当たり前と言えば当たり前のことだが、野田洋次郎さんの類稀なる感性によって生み出された歌詞でその事実にはっとさせられたのだった。

前置きが長くなったが、リチャード・バック著「イリュージョン(村上龍訳)」は間違いなく私のDNAに作用し私を構成するいち要素になっていると思う。その要素を端的に表すなら「自分の航海の舵取りは自分でする」ということになるだろうか。

ー小型機にお客を乗せて生計を立てながら各地を渡り行く飛行機乗りのリチャードが同じく飛行機乗りのドンに出会う。リチャードはドンが不思議な力を持っていることに気づく。ドンは救世主だった過去を持っていたー

ざっくりでこんなお話なのだが、ドキッとするような文章がこれでもかと溢れてくる。手厳しさを感じることもしばしばだ。イントロダクションの寓話がすごいので少しだけご紹介。

「生き物は、川底の小枝や小石につかまって生きていた。そのしがみつく方法やつかまるものは様々だったが、流れに逆らうということが彼らの生活様式の根本だったわけだ。生まれた時からそうしてきたのだから」

寓話は続いている。

「しかし、生き物の中の1人が叫び出す日がきた。『もうあきあきだ。こんな風にしがみついてるのには完全に飽きた。見たわけじゃないが、この川の流れは優しいし、どこへ出るのか教えてくれそうな気がする。連れてって欲しいよ俺は、このままだと退屈で死んじゃうよ。あんたらそうは思わないか?』」

この後は予想もしない展開になっていくのだが結末はとても清々しい。

身の周りに起きていることが全てイリュージョン、つまり幻想だったら?そんな切り口で自分を俯瞰して見ることができる作品。人生の舵取りに迷った時に読み返したい一冊だ。

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