好きなものを語る⑤モモ

好きなもの

小学生の時に出会って以来モモは私の中にいる。長い伴走者だ。エンデが描いた〈どこにもない家〉の絵が表紙のこのオレンジの本は断捨離の機会を難なく交わしてずっと手元にあり続ける。引き込まれるストーリー、豊かな挿絵、語りかけてくる文章、全てが愛おしい宝珠の一冊だ。

モモは孤児院から抜け出し廃墟となった円形劇場を住まいとした。モモがいると大人のいがみ合いは解決し子どもの遊びはとびきり楽しくなった。モモが長けていたことは相手の話を聞くこと。エンデは「なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。話を聞くなんて、だれにだってできるじゃないかって。でもそれはまちがいです。ほんとうに聞くことのできる人は、めったにいないものです。」と語りかけてくる。

物語の中に時間の花という花が出てくる。それは1人1人に与えられている命そのものだ。時間の国に咲くその花の様を読んでいると、心を満たす豊かな時間を持とう、急かされずその時間を味わおう、そんな決意が胸の奥から滲んでくる。今自分はどんな時間の花を咲かせているのだろう、そんなことを想像するのも楽しい。

作者のミヒャエル•エンデ氏は晩年、はてしない物語を翻訳した佐藤真理子さんと結婚、禅に興味を持つなど日本びいきだったことが知られており嬉しい話だ。「モモ」は「桃」や「百」からきているという説もある。亀好きな理由を、何の役にも立たないところ、少食なところ、と語るエピソードがありそれがずっと心に残っている。

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