敬愛する故•筑紫哲也さんは無類のやきもの好きで赤坂にやきものを置くためのマンションをお持ちだったとか。ずっと心に残る氏の言葉がある。
「それでいながら不思議だねェ、ウチのおくさんともよく話すんだけど結局は器に人柄がでる。いい人だなと思う人のはやっぱりいいんだね。人間が妙にギラついてるなと思うと作品もよくない。やきものほど人間がストレートに出るのもないんじゃないかしら。」
書は人なりと言う言葉があるが、その人から出たものはその人を表すとは疑うべくもない。そしてやきものはそれが顕著だということは作る側からしたら恐ろしい話だ。
筑紫さんの足元にも及ばないがやきものが好きで若い頃から数々の器に出会ってきた。そして氏の言う通り作品はその人を体現していると感じる。
前置きが相当長くなったが、私は九谷の松本佐一さんの器が好きだ。写真の長皿は金沢のアンティークショップで出会い一目惚れ。大事に抱えて連れ帰ってきた。松本佐一さんは既に他界されているのでご本人にお会いすることは叶わないが想像するにこんな方だと思う。
大胆さと繊細さを合わせ持った方
誠実•正直な方
誇張•見栄と縁のない方
この長皿にのせるとヴィロンのレトロドールの美味しさが増す。洋梨が立派なデザートに変身する。亡くなってもなお見ず知らずの私の食卓を豊かなものにしてくれている松本佐一さんに感謝したい。
追記:この文章を書くにあたり松本佐一さん(1930〜2021年)の偉業を知った。
1972年、日中国交正常化では、日本からの土産品として記念の杯300個を制作。国交正常化を祝うパーティーでは当時の日本の田中角栄首相と中国の周恩来首相がこの杯を手に乾杯した。
樹齢約700年の国指定天然記念物「御仏供杉(おぼけすぎ)」が近くにある豊かな自然に囲まれた地を創作の拠点にしようと85年、白山市(旧吉野谷村)の古民家鶉荘(うずらそう)を移築し、移り住んだ。2003年に旧吉野谷村が鶉荘を譲り受け、現在も文化交流の拠点として使用されている。