ヴィム•ヴェンダース監督のパーフェクトデイズをご覧になっただろうか。このタイトルを思い浮かべるだけで何とも言えない哀愁に包まれる。私はこの映画が好きだ。
渋谷の公衆トイレの清掃員の平山の日常が丁寧に描かれたのち平穏を打ち破る出来事が次々と起きる。それは人と人との巡り合わせの中で誰にでも起こりうるような出来事だ。他人にはわからない深さで心に傷を負うこともある。突然誰かが自分のテリトリーに入ってきて戸惑いながらも癒されることもある。裏切られることもある。安らげる行きつけに通ったりもする。好きな人が別の誰かといるところを見てしまうこともある。
そういった共感の果てに、しかし私は私の守りたいものをここまで徹底して守っているのだろうかと自問自答することになる。平山の生活はストイックでまるで修行僧のように映った。それでも映画のキャッチコピーは「こんなふうに生きていけたなら」。確かに平山の生き方はどこか眩しい。こんなふうにってどんなふうに?平山に憧れる要素ってなんだろう、平山にあって私にないものとは。
考えた末に思い至った、それは静寂なのかなと思う。自分には静寂が足りない。だから平山の生活が神々しく映ったのだろう。静寂は待っていても訪れない。自分から確保していかないと。そんなことを思った。
ラストシーンの役所さんのアップの表情にはぐっとくる。役所さんのことをヴィム•ヴェンダース監督が長年リスペクトしてきたというのも嬉しい話だ。他のキャストも好きな人ばかり。静寂を確保して何度も見直したい映画だ。
(余談ですが妹役の麻生祐未さんが役所さんに渡したお土産ってくるみっこですよね。キュンときました。)