目白で古道具坂田を営まれていた故・坂田和實さんが芸術新潮に連載されていた文章をまとめたこの本。宝です。心に余白がある時におもむろに開くといつも気が引き締まり浄化されます。
まえがきから少しご紹介。
「美しさは知識からは見えてこない。自由な眼と柔らかな心がその扉を開く鍵らしい。ムツかしい理論よサヨウナラ。高い品物の中にしか美しいものがないと信じている人、ゴクロウさま。僕はせいぜい寝っころがりながら、自分のモノサシに油を塗り、使い込んで柔らかくして、何ともない身のまわりの工芸品から美しいものを選択して行こう。それは又、自分自身を確立し、歩こうとする道を明らかにすることでもあるはずだ。」
自分のモノサシに油を塗り。。いやーすごいなーすごい表現ですよね。感動します。私はこの本に出会って、そのモノが良いものかどうかはひとりよがりで良い、つまり自分が良いと思えばそれは良いモノであり、誰かのジャッジは必要ないのだということに迷いがなくなりました。
一度だけ先の店で坂田さんを拝んだことがあります。当時はこの本の存在を知らず訪れたのですがただならぬ雰囲気を醸し出しておられました。とても気軽に話しかけられる感じでは無く、正直に言うとコワそうだったのですが、後に読んだこの本の文章は緊張感を漂わせながらも柔らかで茶目っ気を感じられるもの。ああ、こうゆう方だったんだ、という驚きもまたこの本に惹きつけられる理由のひとつです。